世界各国のデジタル機器への姿勢

オーストラリアの動き

 2024年12月、オーストラリアで16歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止する法律が成立しました。この法律は、SNSの運営会社に16歳未満の子どもが利用できないような措置を義務づけるもので、違反した場合は罰金が科されます。対象と想定されるSNSは、インスタグラムやTikTok、スナップチャット、X、フェイスブックなどで、YouTubeなど、教育目的でも使われるものは適用が除外される見通しです。オーストラリア政府は「世界的にみても先進的だ」とコメントしています。
 16歳未満の利用を一律に禁止をすることには、もちろん反対の声もあります。インスタグラムなどを運営するメタや、TikTokなど大手SNS運営会社などがオーストラリアで立ち上げた団体は、有害なコンテンツから子どもを守る対策をすでに行っていることや、オンラインでの年齢確認の方法が十分確立されていないことを理由に反対する声明を出しています。また、オーストラリアで最大の子どもの権利擁護の団体は、国連の「子どもの権利条約」で定める、子どもの表現の自由や情報を得る権利を妨げることにもつながるとして、SNSへのアクセスを完全に禁止することには問題があると訴えています。その上で、SNSを禁止するのではなく、リスクや付き合い方を教える教育のほうが大切だとしています。
 賛否はあるものの、オーストラリア政府は1年後の施行に向けて準備を進めています。

各国の様子

 オーストラリアだけでなく、最近は世界中で子どものSNS利用の規制や子どもをインターネット上の有害なコンテンツから守るための対策がさまざまな形で進んでいます。
 アメリカのフロリダ州では、2024年3月、14歳未満のSNSのアカウント開設を完全に禁止する法律が成立しました。また、ノルウェーでは現在、15歳未満の子どもがSNSを利用することを禁止しようという議論が進んでいます。日本でも、こども家庭庁を中心にワーキンググループが立ち上がりました。SNSに起因する被害が社会的な問題となる中、課題や論点を整理していくということになっています。
 フランスの政府諮問委員会は、「携帯電話の使用は11歳以上に限定すべき」と勧告する報告書を発表しました。携帯電話やテレビ、コンピュータなどのデジタル映像は「3歳までは見せるべきではない」とも明記しています。また、SNSなどで暴力的な映像や偏見情報が流布されているとして、携帯電話は13歳までインターネットに接続できないようにすべきであり、18歳で成人になるまでは、SNSのアクセス制限が望ましいと提言しています。この報告書は政府に提出され、デジタル映像に長時間接することによる悪影響は科学的に証明されていないとしながら、政府は増大するリスクに対処すべきだと促しました。

教育におけるデジタル機器

 SNS利用の規制とは少し異なりますが、スウェーデン政府がデジタル教育推進政策を修正すると発表したことも興味深いニュースです。
 デジタル教育先進国として知られるスウェーデンでは、2022年秋に就任した新しい教育大臣が、「近年の学校現場のデジタル化は無批判で行き過ぎだ」と批判し、見直しを求めました。
 専門家は、デジタル教材は音や動画を使ってリアルな内容が理解しやすいといった利点があるものの、紙の本の方が見直しやすく、内容をよく理解でき、読書の時間が長くなる傾向がある、という研究結果を発表しました。また、教育現場からは、デジタル教材では説明を聞きながら他に注意が向きがちでマルチタスクになり、集中力が低下するため学習を阻害するといった意見が出されました。集中力を保てる子どもたちは影響を受けにくいものの、そうでない子どもたちの成績が落ちたという経験を持つ教師もいたそうです。
 今後は、「学校では書籍を配布し、図書館利用を進める」「就学前の幼児教育からデジタル学習機器を外す」などの方針を示しました。
 教育においても、生活においても、スマホなどのデジタル機器と子どもたちとの距離の取り方について、真剣に考えていかなければいけない時期になってきたのだと思います。世界各国や日本の動向に注目すると同時に、私たちも普段からスマホなどの使い方を見直してみる必要があるかもしれません。